2025年8月16日

こんにちは。
西鉄平尾駅から徒歩1分の福岡市南区高宮にある、消化器と肛門を専門とする「しんかい内科・内視鏡クリニック」の院長の新海です。
突然ですが、みなさんは肛門周囲膿瘍という言葉を聞いたことがあるでしょうか?あまり聞きなれない病気かもしれませんが、最近当院でも何例か受診があったので、今回はその話題についてお話していきたいと思います。
肛門周囲膿瘍とは
肛門周囲膿瘍は、肛門の周囲に膿(うみ)がたまって腫れや強い痛みを起こす病気です。
狭義では、肛門の中には便や細菌が入らないようにするための小さなくぼみ(肛門陰窩)があり、そこから細菌が入り込んで炎症を起こし、膿がたまることで発症するものを指しますが、広義には臀部の粉瘤や毛嚢炎を契機に膿がたまるものも含みます。
また、膿瘍が出来る部位も様々で、主に下記のような隅越分類が使用されています。

肛門周囲膿瘍の症状
肛門周囲の感染に伴った下記のような症状が出現します。
- 肛門周囲の強い痛み(座る・歩くのもつらい)
- 腫れ・赤み・熱感
- 発熱・悪寒
- 排便時の激しい痛み
肛門周囲膿瘍の原因菌
肛門周囲膿瘍の原因菌は、ほとんどが腸内常在菌で、好気性菌と嫌気性菌が混合して関与します(混合感染)。
1. 主な原因菌の種類
(1)好気性菌
酸素のある環境でも生育できる菌で、主に便中の常在菌が関与します。
大腸菌(Escherichia coli):最も多い原因菌で、通常は腸内で無害だが、肛門腺や皮下に侵入すると化膿を起こす
腸球菌(Enterococcus faecalis / faecium):グラム陽性球菌で、抗菌薬耐性株も多く、治療に注意が必要
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus):皮膚からの混合感染として関与することがある
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa):まれだが免疫低下例でみられる
(2)嫌気性菌
酸素の少ない環境を好み、肛門周囲や腸内に豊富に存在します。
バクテロイデス属(Bacteroides fragilisなど):嫌気性菌の中で最も多く検出され、β-ラクタマーゼ産生菌が多く、ペニシリン系単剤が効きにくい
プレボテラ属(Prevotella spp.)
ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus spp.)
クロストリジウム属(Clostridium spp.)
2. 感染の特徴
多くは好気性菌+嫌気性菌の混合感染とされています。その中でも嫌気性菌は膿瘍の悪臭の原因になることが多いです。
免疫抑制例(糖尿病・ステロイド治療中・HIV感染など)では、真菌(カンジダ)や非定型菌が加わることもあります
肛門周囲膿瘍の診断・検査
大体病歴聴取と理学的な診察のみで診断することは可能です。ただ、深部病変であったり、原因として痔瘻が強く疑われる、拡がりを確認したい、などの時は、超音波検査やCT、骨盤MRIなどが行われたりします。
肛門周囲膿瘍の治療
肛門周囲に限らず、いわゆる膿瘍といわれる病態はなかなか抗生剤などの薬剤が到達しにくく有効性が低いため、基本的には外科的な排膿が治療の第一選択となります。肛門周囲膿瘍に対する切開・排膿も皮下に存在すれば簡単ですが、深部病変だったりすると難易度が上がるので、超音波で確認しながら切開・排膿することもあります。加えて痔瘻の合併があると、切開方法やプラスアルファで瘻孔に対する加療も必要になることがあります。
また、切開排膿が第一ですが、全身症状がある場合や深部膿瘍、免疫低下例では抗菌薬も併用します。
- 第一選択(嫌気性+好気性カバー)
- セフトリアキソン+メトロニダゾール
- アモキシシリン/クラブラン酸(海外ではよく使用)
- ピペラシリン/タゾバクタム(重症例)
ペニシリン単剤はバクテロイデス属に効きにくいため推奨されません。
最後に
肛門周囲膿瘍と言っても、上記のように原因、部位、起因菌によって治療に対するアプローチも変わってきますし、放置すると全身の感染症へ移行し生命の危険を脅かすこともあるので、肛門周囲膿瘍の心配がある方は、肛門専門を掲げているクリニックや病院で治療を受けることをおすすめまします。