2025年11月06日
ヘリコバクター・ピロリ菌とは?
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)は、胃の粘膜に生息するらせん状の形態をとった細菌です。
1982年にオーストラリアのワレン博士とマーシャル博士によって発見され、胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんの原因菌であることが明らかになりました。
この発見は医学界に大きな衝撃を与え、2005年に両博士はノーベル医学生理学賞を受賞しています。
ヘリコバクター・ピロリ菌の特徴
酸性環境に強い:胃の中は強酸(pH1~2)ですが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を使ってアンモニアを作り出し、自分の周囲の酸を中和して生き延びます。
らせん状の形態と鞭毛を持ち、胃の粘液層の中を泳ぐように移動します。
胃の粘膜に付着して慢性的な炎症(慢性胃炎)を引き起こします。
感染経路は主に経口感染と考えられています。
ピロリ菌関連の疾患
慢性胃炎
感染者の多くに見られ、胃の粘膜が長期間炎症を起こします。
胃・十二指腸潰瘍
胃酸分泌や防御機構のバランスが崩れ、潰瘍を形成します。
胃がん
ピロリ菌による慢性胃炎が長年続くと、萎縮性胃炎 → 腸上皮化生 → 胃がん という経過をたどることがあります。
胃がんの約90%にピロリ菌感染が関与しているといわれています。
MALTリンパ腫(胃の粘膜関連リンパ組織の腫瘍)
早期であればピロリ菌除菌によって腫瘍が消失することもあります。
ピロリ菌感染の診断方法
非侵襲的検査(胃カメラ不要)
- 尿素呼気試験:最も信頼性が高い。検査薬を服用し、呼気中の二酸化炭素を測定。
- 便中抗原検査:便の中にピロリ抗原があるか調べる。
- 血清抗体検査:血液中の抗体を測定。ただし、過去感染との区別が難しい。
侵襲的検査(胃カメラが必要)
- 迅速ウレアーゼ試験:胃粘膜を採取し、ウレアーゼ反応で判定。
- 培養検査・組織染色検査:より詳細な診断や薬剤耐性の確認が可能。
除菌療法
感染が確認された場合、除菌療法が行われます。
日本では保険診療で認められています。
標準的な治療法(一次除菌)
- PPI(プロトンポンプ阻害薬)またはボノプラザン
- アモキシシリン(抗生物質)
- クラリスロマイシン(抗生物質)
の3剤を1週間服用
成功率はおよそ80〜90%ですが、耐性菌の増加により失敗することもあります。
失敗時は、二次除菌(抗生物質を変更)を行います。
除菌後の経過観察
除菌成功後も胃がんリスクはゼロにはならないため、定期的な胃カメラ検査が推奨されます。
胃の粘膜が萎縮している場合や家族に胃がんの既往がある場合は、1〜2年に1回の胃内視鏡検査が望ましいです。
